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「お前の男はお前を守る為に手段を選ばなかった。」
「止めて下さいっ!」
もう聞きたくない。
だって十分過ぎるぐらい分かってる。
だから彼の命と引き換えに生き残った自分が嫌いなんだ。
「本当は知ってました。瘦小腿原理 二人一緒には生き残れなかった事。」
あの時,囲まれた時点で死ぬ覚悟は出来ていた。
一緒に逃げるのは無理だって理解していた。
「それでも“もしかしたら”って思った。
何か方法があるかもしれへんって。」
その微かな希望が大きすぎて,何も出来なかった後悔ばかりが付きまとう。
気持ちと一緒に涙も溢れ出た。
まだ笑いたくなんかない。
笑ってると,ふくと約束して笑おうと決意した日からずっと,無理してたんだ。
「手段を選んだのは新ちゃんやったとしても,選ばしてしまったのは私やから……。」
「……分かった,お前は自分自身を許せてない。そうだろ。」
土方は覆い被さるのを止めて,三津の隣りに寝転んだ。
片手で頬杖をつき,片手で三津の黒髪を梳いた。
簡単に纏めただけの髪ははらりと肩に落ちた。
土方の指先はそれをくるくると絡めていく。
「人を犠牲にしちまった自分が嫌いで嫌いで堪らないんだろ。」
どんなに悔いても,報われることはない。
『俺は……みんなはそれを糧にして進む事にした。その強さを身に付けた。
でもこいつは……。』
まだもがいてる。
頑丈な手枷足枷がついたまま。
「どうせお前のこった,みんなの望む姿であろうと無理して来たんだろ。
大丈夫じゃねぇのに大丈夫って言って,無理やり笑う術だけ身に付けて。
おい,こっち向けよ。」
絡めとった髪を軽くクイっと引いてみる。
三津は泣いて小さく肩を揺らしたまま無言を貫いた。
「何も言わねぇ辺り当たってんだろ?俺の言う事。」
「ほっといて下さい……。」
うつ伏せた状態から土方に背を向けた。
「生意気っ。」
『折角慰めてやろうってのに,本当可愛くねぇの。』
今なら涙を拭って,ちょっとばかし甘い言葉を囁けば,落とせる気がする。
そんな甘い考えを巡らせていると,怒り任せな足音が階段を駆け上がって来る。
その足音は土方に身構える隙も与えずこの部屋までやって来た。
「ここですかっ!?」
すぱーっん!!と襖を全開にして踏み込んで来た奴に土方の表情が歪んだ。「わーっ!見ちゃ駄目っ!!沖田さんあっち向いてっ!!」
飛び込んで来た総司に慌てふためいた三津は,体を隠してうずくまった。
「人がお楽しみの所に踏み込んで来るなんて野暮な事してくれてんじゃねぇよ,総司。」
「ちょっ!変な言い方止めて下さいっ!!」
何も知らない人から見れば完全に事が済んだ後の二人。
「それは失礼しました。御用改めです。」
にっこりと笑って今にも刀を抜きそうな素振りを見せた。
「副長申し訳ありません。止めたのですが力及ばず……。」
総司を制してスッと前に出て来たのは斎藤だった。
『なるほど,そう言う事か。』
土方はゆっくり体を起こして胡座をかき,乱暴に後頭部を掻いた。
自分で三津の護衛として斎藤をつけておきながらすっかり忘れていた。
『……って事は斎藤は俺が道端で三津に絡んでここに連れ込んだのを終始見ておいて,尚且つずっと出て来るのを待ってたんだな。』
澄ました顔をしているが,とんでもない醜態を晒したと胸の内は乱れまくりだった。
総司がここに上がって来るまでの事は容易に想像出来た。
巡察で通りかかった総司が斎藤を見つけた。
三津の護衛をしている斎藤がここにいる。
斎藤がいるなら必然的に三津もいるはず。
嬉々としたのも束の間,斎藤が見張ってたのは盆屋だった。
場所が場所なだけに取り乱したのは言うまでもない。
その問い掛けに、吉田は目を細めた。
そもそも何がきっかけなのかは覚えていないが、突然不思議な夢を見るようになったのだ。
一面に咲き誇る桜と白い沖田は目尻に溜まった涙を拭いながら、楽しそうにニコニコと笑う。
「そ、それは……」
「いっつも気難しい顔をしているから。壬生の狼の巣窟に放り込まれて、嫌な気持ちは分かりますけれどね。瘦小腿原理 ああ、良かった。これで私、貴方のことを好きになれそうです」
「す、好き!?」
桜花は素っ頓狂な声を上げた。その声の大きさに更に多くの人がこちらへ視線を移す。
「え、ええ。折角、同じ釜の飯を食うのだから仲良くやっていきたいじゃないですか。ね?じゃあ、帰りましょう。遅くなったら、土方さんからお小言を食らってしまう」
そう言うと、沖田はさっさと歩き出した。その背を追いかけながら、桜花は僅かに口元を緩める。
「はい、後ろを向いて下さい」
言われるがままに、沖田へ背を向ければパンパンと小気味良い音を立てて、それらは払い落とされた。
「良かったですね、見付かったのが私で。これが平助や原田さんならずっと言われるところでしたよ。プッ、ククッ……」
そう言っている間も沖田は肩を揺らして笑っている。
それを見ながら、誤魔化せたのであれば良いかと胸を撫で下ろした。だが、余程ツボにはまったのか笑いは止まらない。
若侍が道の往来で大口を開けて笑っているものだから、通行人から注目を浴びる始末だ。
「い、いつまで笑っているんですか!」
それに耐えきれなくなった桜花は眉を顰めながら、抗議をするように沖田を睨む。
「ふふ、あはは……ああ、可笑しい。貴方って案外間の抜けたところがあるんですねぇ」 一方で、借りている裏長屋へと到着した吉田は引き戸を開けた。五畳一間のそこは日が殆ど当たらないために、日中であっても薄暗く肌寒い。
「お帰りなさいませ。ぶち遅かったですのう」
そこへ長州訛りの男が出迎えた。目鼻立ちはすっきりとしており、頬には刀傷がある。闇夜を彷彿とさせるような漆黒の着物に身を包んでいた。うてたら、壬生狼に追い掛けられてね」
式台へ腰掛ける吉田の前に、水を張った桶が置かれる。それで足を洗うと、部屋へ上がった。
「ほうでしたか……。ご無事で何よりです」
与三郎と呼ばれた男は、それを片付けながら微かに眉を寄せる。吉田と同じ長州の出で、彼がという被差別民だけの軍を結成する際に、特別その剣才を買われて行動を共にしている従者であった。
「ところで、壬生狼の入隊試験はどうじゃった」
刀を刀置きへ掛け、羽織を脱ぐ。文机の前へ座りながら、与三郎の方を見やった。
く。甲の評定を貰いましたけえ、入隊は確実かと」
「流石じゃ。心配はしちょらんかったが」
文机の引き出しから墨や硯、筆と新品の帳面を取り出す。そして背筋を取り出すと、すらすらと今日あった出来事を綴って行った。
その脳裏には、琥珀色の瞳を持ったの顔が浮かぶ。
──鈴木桜花、と云ったか。あれは不思議な男じゃ。まるで纏う空気が違う。言うなれば、その隣は澄み渡った春の空のように心地が良い。
「──様、吉田様。墨が机へ垂れちょります」
「ん、ああ。すまん、考え事をしておった」
与三郎の声で我に返った吉田は、懐紙で垂らしたそれを拭き取ると筆を進めた。
その横顔を見ながら、与三郎は目を細める。
「何か良いことでも?口元が笑うておりました」
「え……、否、た……大したことは無い」
左手で口元を隠しながら、さっさと書き終えると筆を置く。僅かに目元を染めながら瞳を伏せた。