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「そちの推測はちと綺麗過ぎる

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「そちの推測はちと綺麗過ぎる

「そちの推測はちと綺麗過ぎる。じゃが、確かにあの生真面目な爺ならば、そう思うたやも知れぬな」

 

その口元に、小さな笑みを広げた。

 

「されど、推測ではない、確かな希望も一つだけございます」

 

「希望?」瘦小腿原理

 

「平手殿が最後まで、殿を信じるお心を捨て切らなかった事にございます」

 

濃姫は繋ぎ合わせた切れ端の末尾に触れながら、穏やかに微笑んだ。

良き主君におなり下さいませ──最後に書き添えたこのお言葉に、平手殿のお心が表れているように思います」

 

故人を偲びつつ、感慨深げに呟くと

 

「後は殿が、平手殿のお心にどうお答えになるかでございます」

 

そう言い置くなり、濃姫は立ち上がって、踵を返した。

 

どこへ参る?」

 

「寝所へ戻ります。殿も本日はお疲れでございましょう。どうぞ、ごゆるりとお休みなされませ」

 

姫は緩く頭を下げると、静かに歩を進めた。

 

 

「待て──

 

信長の、小さいが張りのある声が姫の背にぶつかった。

 

 

「そなた、儂がこのような夜更けに、何の為にそなたの座所までやって来たと思うておるのだ?」

 

濃姫はえっとなって、軽く振り返った。

 

「この言い難き憂さを晴らしとうて、一日中馬で野を駆け、山々の草木を手当たり次第に切り倒して参った故、汗で身体中が濡れてしもうて、今はもう寒うて寒うて仕方ないのだ」

 

殿」

 

「そなたは儂の女房であろう。……夫の身体を暖めるくらいの事してくれても良いのではないか?」

 

求めるような信長の目が、静かに濃姫を認めた。

姫はその面差しに、愛情深き笑みを浮かべると

 

「それが、我が夫君の御意であるのならば」

 

と、足早に信長の側へと歩み寄った。

 

すっかり冷えきった信長の身体は、濃姫のその華奢な身によって、熱く、そして深く、

 

朝日が御殿の屋根を白く照らすまで、長らく暖め続けられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

平手政秀の自刃から数週間後。

 

濃姫の居間の下座には、老女の千代山が招かれていた。

 

──では此度の件で、平手家に対するお咎めなどは何もなかったのですね?」

 

「はい。五郎右衛門殿共々、平手様のご子息方は今まで通り織田家で仕えよとの、殿の仰せにございます」

 

その報告に、濃姫の口から安堵の息が漏れた。

 

信頼はしていても、信長はやはりあの気性。

 

怒りに任せて平手家を断罪するのではないかと内心不安に思っていたのだが、どうやら杞憂に終わったようである。

 

「また殿は、平手様の御霊を弔うべく、沢彦和尚を開山に、政秀寺(せいしゅうじ)なる菩提寺を新たに建立なされる由にございます」

 

「まぁ、殿が平手殿の為に寺を!?

「左様に伺っておりまする」

 

千代山が目で首肯すると

 

「そうでしたか。──あの殿がそこまで」

 

姫は清廉なその面差しに、暖かさに満ちた微笑を浮かべた。

 

政秀に対する信長の特別な思いが伝わって来るようで、濃姫も嬉しかったのである。

 

信長の供養によって政秀の御霊も随分と慰められる事だろう。

 

良き行いだと、濃姫も一先ず安堵を得ていると

 

「それに致しましても、あの平手様が身罷(みまか)られたとは、ほんに悔やまれるばかり。

 

享年六十二……人間五十年と言われる今の世にては、大往生やも知れませぬが」

 

千代山は虚空に視線を泳がせながら、憮然とした様子で独りごちた。

 

「されどこれで、殿の奇抜なお振る舞いも少しは改まりましょう。

 

平手様は、その為に自刃あそばされたと申しても過言ではないのですから」

 

千代山の言葉に、濃姫は思わず眉根を寄せた。

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